真空ポンプとは
|仕組み、種類まで解説

【目次】

  

本記事では、真空ポンプの仕組みや種類を、真空度という観点から体系的に整理して解説します。
真空の基礎概念を押さえたうえで、各真空領域に適した方式や用途を紹介し、
目的に応じた真空ポンプ選定の参考となる基礎知識をまとめています。

真空とは

真空技術は、研究開発から各種製造プロセスに至るまで、再現性や品質を左右する重要な基盤技術の一つです。
一口に「真空」といっても、その状態は圧力範囲によって大きく異なり、気体の挙動や装置設計の考え方も変化します。
ここでは、真空ポンプの選定や真空装置の理解に必要となる基本的な用語と真空領域の考え方について整理します。
以下に示す定義や分類は、工業分野や研究分野で一般的に用いられている考え方をもとにしています。

真空(vacuum)
通常の大気圧より低い圧力(分子密度)の気体で満たされた空間の状態。
(※1)

真空ポンプを探す

用途やプロセスによって、必要とされる真空度は大きく異なります。
真空ポンプは、到達真空度や運転方式により適した機種が異なるため、目的に合った選定が重要です。
下記の一覧は、求める真空度の範囲を基準に、代表的な真空ポンプの種類を整理したものです。
機器選定の目安としてご活用ください。

 

各ポンプ名をクリックすると、仕様・特長・用途例などの詳細ページをご覧いただけます。

 

真空ポンプの種類と真空領域 クライオポンプ スパッタイオンポンプ ターボ分子ポンプ 油拡散ポンプ 多段ルーツ型ドライ真空ポンプ スクロール型ドライ真空ポンプ スクリュー型ドライ真空ポンプ 油回転真空ポンプ(ロータリーポンプ) ダイヤフラム型真空ポンプ
真空ポンプの種類と真空領域(スマホ表示)

真空度の分類と物理的特性の相関

真空は、JIS規格(JIS Z 8126)等に基づき、圧力範囲によって以下の5段階に分類されます。

 

真空の領域(ranges of vacuum)
真空の圧力範囲に応じて定義される領域。
低真空、中真空、高真空、超高真空、および極高真空という真空の領域がある。
各真空領域の境界となる圧力は、おおよその値である。

 

  1. 低真空領域 (Low Vacuum)
    • 圧力範囲:大気圧(31 kPa~110 kPa)未満、100 Pa以上
    • 用途例:真空チャック(吸着)、乾燥、粗引き排気、簡易的な脱泡。
    • 代表的なポンプ:ダイヤフラムポンプ、油回転ポンプ、スクロールポンプ

    低真空は、一般材料(通常の鉄など)で作製された真空容器を、粗引き真空ポンプで真空排気することによって得ることが可能である。
    粗引き真空ポンプへの導管の内径が30mm程度の場合、気体の流れは粘性流となる。
    地上における大気圧は、天候および標高に依存し、31kPa(エベレスト山の山頂で気圧が低いとき)から110kPa(死海で気圧が高いとき)の範囲にある。
    (※1)

  2. 中真空領域 (Medium Vacuum)
    • 圧力範囲:100 Pa未満、0.1 Pa以上
    • 用途例:真空蒸留、フリーズドライ、真空乾燥、スパッタリングの前排気。
    • Point:単体ポンプでは排気効率が落ち始めるため、上記に加えメカニカルブースタポンプ(MBP)を併用し、実効排気速度を稼ぐ構成が一般的です。

    中真空は真空用材料(ステンレス鋼など)で作製された真空容器を、粗引き真空ポンプで真空排気することによって得られる。
    導管の内径を30mm程度とした場合、気体の流れは中間流となる。
    (※1)

  3. 高真空領域 (High Vacuum)
    • 圧力範囲:0.1 Pa未満、1×10⁻⁶ Pa以上
    • 用途例:真空蒸着、電子顕微鏡(SEM)、表面分析
    • 代表的なポンプ:ターボ分子ポンプ (TMP)、油拡散ポンプ
    • Point:この領域から、ポンプ単体での大気圧起動は不可能になります。粗引きポンプと組み合わせて運用します。

    高真空は、真空用材料(ステンレス鋼、アルミニウム合金など)で作製された真空容器を用い、
    エラストマー(Oリングなど)で締結部を真空封止し、高真空ポンプで真空排気することによって得ることが可能である。
    導管の内径を30mm程度とした場合、気体の流れは分子流となる。
    (※1)

  4. 超高真空領域 (Ultra High Vacuum / UHV)
    • 圧力範囲:1×10⁻⁶ Pa未満、1×10⁻⁹ Pa以上
    • 物理的制約:空間内の気体排気よりも、**「壁面からのガス放出(アウトガス)」**の抑制が支配的要因。
    • 用途例:表面物性研究、真空薄膜形成装置、エッチング装置、MBE(分子線エピタキシー)装置
    • 代表的なポンプ:スパッタイオンポンプ、クライオポンプ
    • Point:真空容器を加熱する「ベーキング」を行い、吸着分子(特に水分)を強制離脱させる運用が必須です。

    超高真空は、特殊な内面処理または洗浄が施された真空用材料(低炭素ステンレス鋼、アルミニウム合金、無酸素銅など)で作製された真空容器を用い、
    金属ガスケットで締結部を真空封止し、高真空ポンプで真空排気し、さらにベーキングを実施することによって得ることが可能である。
    多くの導管では、気体の流れは分子流となる。
    (※1)

  5. 極高真空領域 (Extreme High Vacuum / XHV)
    • 圧力範囲:1×10⁻⁹ Pa未満
    • 用途:宇宙環境シミュレーション、基礎物理研究、先端材料開発

    極高真空は、特殊な内面処理または洗浄が施され、選ばれた真空用材料(真空高温熱処理された低炭素ステンレス鋼、アルミニウム合金、
    ベリリウム銅、チタンなど)で作製された真空容器を用い、金属ガスケットで締結部を真空封止し、高真空ポンプで真空排気し、
    さらにベーキングと気体ため込み式真空ポンプとを用いた真空排気を実施することによって得ることが可能である。
    多くの場合、気体の流れは分子流となる。
    (※1)

真空ポンプとは

真空ポンプ *1)は、真空装置において単に気体を排気するだけでなく、目的とする真空度を効率よく、安定して、再現性をもって維持するための中核機器です。
使用する真空領域やプロセス条件によって、ポンプの構造や原理、運転方法は大きく異なります。

*1) 真空を作り、改善し、保持する機器。
基本的に異なっている二つの種類である 気体輸送式真空ポンプおよび 気体ため込式真空ポンプとに分類される。
(※2)(図1参照)

 

真空計に関する解説は、こちらをご覧ください。
真空計とは|ピラニ真空計を含む種類と原理を解説

代表的な真空ポンプの種類と仕組み

真空ポンプの種類を説明します。
真空ポンプは、その排気原理の違いからいくつかの方式に分類されます。
本章では、真空技術分野で一般的に用いられている分類に基づき、各方式の基本的な仕組みと特徴を整理します。
なお、実際の装置では、単一のポンプではなく、複数のポンプを組み合わせた排気系が構成されることも一般的です。

 

図1 真空ポンプの分類(JIS Z 8196-2:1999 に準拠)

 

気体輸送式真空ポンプ

容積移送式真空ポンプ(positive displacement(vacuum)pump)
一定体積の気体が吸気口から周期的に隔離されて排気口に運ばれる真空ポンプ。
ほとんどの容積移送式真空ポンプで、気体は排気口から排気されるまでに圧縮される。
容積移送式真空ポンプは往復動式および回転式の二つに分類される。

ドライ(真空)ポンプ(dry-sealed vacuum pump)
油または液体を運動する部分のすきまを密閉する目的に使用しない容積移送式真空ポンプ。

油回転(真空)ポンプ(oil-sealed rotary vacuum pump)
油によって、ロータ、ステータ、翼板などの部品の間の気密および無効空間の減少を図っている容積移送式真空ポンプ。

ルーツ(真空)ポンプ(Roots vacuum pump)
二つのまゆ形ロータが互いに反対方向に連動・同期して、ステータと微小な隙間を保ちながら、非接触で回転する容積移送式真空ポンプ。

トロコイドポンプ(trochoid pump)
ロータ断面がトロコイド曲面(例えば、楕円)で重心が円を描く回転式容積移送式真空ポンプ。

運動量輸送式真空ポンプ(kinetic vacuum pump)
気体分子に運動量を与えて、吸気口から排気口へ連続的に気体を輸送する真空ポンプ。
流体作動式と機械式との二つに大別される。

ターボ(形)真空ポンプ(turbine vacuum pump)
高速で回転するロータによって大量の気体を輸送する回転式運動量輸送式真空ポンプ。
非接触で回転する密封機構がある。
回転軸に平行なもの(軸流形) と回転軸に直角のもの(半径流形) とがある。

拡散ポンプ(diffusion pump)
低い圧力の高速蒸気流が作動流体である運動量輸送式真空ポンプ。
気体分子がこの蒸気流内に拡散し、排気口へと輸送される。
蒸気流中では、分子密度は常に低い。
分子流で作動する。

自己浄化形油拡散ポンプ(self-purifying diffusion pump)
ポンプ作動液の分解による揮発性の不純物がボイラに戻らずに、排気口に輸送されるようにした油拡散ポンプ。

分留形油拡散ポンプ(fractionating diffusion pump)
高真空段の作動液には密度の高い低蒸気圧のものが使用され、低真空段には密度の低い高蒸気圧の作動液を使用するような多段式の油拡散ポンプ。

分子ポンプ(molecular drag pump)
高速のロータ表面によって気体分子に運動量が与えられ、ポンプの排気口の方向に気体が輸送される運動量輸送式真空ポンプ。

ターボ分子ポンプ(turbo-molecular pump)
ロータに溝または羽根があって、それに対応する同様のステータの間を回転する分子ポンプ。
回転体の周速は、気体分子の運動速度とほぼ同じである。
通常、分子流条件のもとでその性能を発揮する。

 

気体ため込式真空ポンプ

気体ため込み式真空ポンプ(entrapment(capture)vacuum pump)
内表面での吸着または凝縮などによって気体分子を捕捉し、ため込むことによって排気する真空ポンプ。

スパッタイオンポンプ(sputter ion pump)
陰極スパッタリングによってゲッタ面を更新するゲッタイオンポンプ。

クライオポンプ(cryopump)
残留気体を凝縮するのに十分な低温面からなる気体ため込み式真空ポンプ。
凝縮物は、平衡蒸気圧が必要とされる圧力以下になるような温度に保たれる。

(※3)

真空ポンプに関するQ&A

Q. 真空ポンプについて教えてください。

【回答】真空ポンプ(vacuum pump)とは、真空を作り、改善し、保持する機器です。
基本的に異なっている二つの種類である気体輸送式真空ポンプおよび気体ため込式真空ポンプとに分類されます。


Q. 真空ポンプにはどのような機器がありますか。

【回答】求める真空度によって使用する機器が異なります。
低真空域ではダイヤフラム型真空ポンプや油回転真空ポンプ、スクロール型ドライ真空ポンプ、多段ルーツ型ドライ真空ポンプなどが用いられ、
高真空〜超高真空域では油拡散ポンプ、ターボ分子ポンプ、スパッタイオンポンプ、クライオポンプなどが使用されます。
詳しくはコチラを参照ください。


Q. 目的とする真空度になっているかは、どのようにして確認すればいいですか。

【回答】真空ポンプで排気を行っていても、対象となる空間が想定した真空度に達しているかどうかは、見た目や動作音だけでは判断できません。
そのため、真空を利用する装置では、真空計を用いて内部の圧力を数値として測定し、目的とする真空状態に到達しているかを確認します。
真空ポンプは真空を「作る」役割を担い、真空計はその状態を「測定・確認する」役割を担っています。
真空計の種類や選定の考え方については、こちらの記事で詳しく解説しています。
真空計とは|ピラニ真空計を含む種類と原理を解説

引用書籍について

(※1)株式会社アルバック著『真空ハンドブック(3訂版)』オーム社,2024年 P.5
(※2)前掲書 P.9
(※3)前掲書 P.9-11

おわりに

真空ポンプは、真空環境の生成から維持までを担う基盤技術であり、用途に適した方式を選択することが工程の安定性に直結します。
本記事が、真空プロセスの理解や装置選定の検討において、少しでもお役に立てれば幸いです。
今後の検討や業務の一助となることを願っております。

謝辞

本記事の作成にあたりオーム社刊『真空ハンドブック(3訂版)』(株式会社アルバック著、2024年) を参照・引用しました。
著者の皆さまに、心より感謝申し上げます。


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