【目次】
膜厚測定とは、光・熱・電磁気などを利用して、製品表面に形成された層(膜)の厚さを測定する技術です。
フィルム、塗工膜、コーティング層、めっき層などの厚さ(膜厚)は、製品品質や機能性能を左右する重要な管理指標です。
近年は材料の多様化や高機能化に伴い、非破壊・高精度・インライン測定への要求が高まっており、用途に応じた測定方式の使い分けが欠かせません。
本稿では、膜厚測定技術を光式、熱式、電磁式、放射線式、音響式、物理式の6つに分類し、それぞれの原理、特長、適用分野について解説します。
第1章では各方式の概要、第2章では各方式の原理、そして第3章ではまとめと補足を付記します。
なお、6方式の比較については、第2章の後に示す表1を参照してください。
光式膜厚測定は、光の反射・干渉・分光特性を利用して膜厚を求める非接触測定方式です。
代表的な手法には、光干渉法、IR吸収法、光反射法、光分光法などがあります。
薄膜測定では、膜表面と膜内部界面で反射した光の干渉から膜厚を解析します。
特に数nm〜数十µmの薄膜に対して高い分解能を発揮し、透明膜や半透明膜の測定に適しています。
光式の特長は非接触・高精度・高速測定であり、フィルムラインや精密塗工工程でのインライン測定に多く利用されています。
ただし、膜の光学特性(屈折率・透明性)に影響されやすいため、材料ごとの校正が重要です。
熱式膜厚測定は、材料の熱伝導率や熱拡散特性を利用して膜厚を推定する方式です。
代表例として、パルス加熱方式や定常加熱方式があります。
測定対象に熱を与え、その温度応答や冷却挙動を解析することで、膜の厚さや均一性を評価します。
基材と膜との熱特性の違いが測定原理となるため、有機塗膜や樹脂層の測定に適しています。
熱式の強みは、透明・不透明を問わず適用できる点と、比較的粗環境でも使用できる点です。
一方で、測定精度は光式や放射線式に比べてやや低く、熱影響を受けやすい工程では注意が必要です。
電磁式膜厚測定は、磁気特性や電気伝導性を利用する方式で、工業分野で広く普及しています。
代表的なものに電磁誘導法および渦電流法があります。
電磁誘導法は、鉄などの磁性金属上の非磁性皮膜(塗装、めっきなど)の測定に使用されます。
一方、渦電流法は、アルミニウムなど導電性金属上の非導電性膜の測定に適しています。
電磁式の特長は装置が簡便でコストが低く、現場測定に向いている点です。
測定速度も速く、ハンディタイプの膜厚計として塗装・防錆工程で広く使われています。
ただし、適用材料が限定される点や、基材表面粗さの影響を受けやすい点には留意が必要です。
放射線式膜厚測定は、X線やβ線などの放射線の吸収・透過特性を利用する方式で、非接触かつ高精度な測定が可能です。
X線方式では、膜厚に応じた透過強度や蛍光強度を検出し、金属膜や多層膜構造の測定にも対応できます。
β線方式は主に連続塗工ラインで使用され、紙、フィルム、樹脂シートなどの厚さ管理に適しています。
放射線式はインラインでの連続測定が可能で、材料や色の影響を受けにくい点が大きな利点です。
一方で、法規制対応、安全管理、装置コストといった運用面のハードルが存在します。
音響式膜厚測定は、超音波の反射時間(TOF:Time of Flight)を利用して膜厚を算出する方式です。
膜と基材の界面で反射した超音波の往復時間から厚さを求めます。
この方式は、不透明膜や多層膜、金属部材上の厚膜測定に適しており、数十µm〜数mmクラスの膜厚測定が可能です。
塗装膜、ゴムライニング、溶射皮膜などの評価にも用いられます。
音響式の利点は、材料を選ばず比較的厚い膜にも対応できる点です。
ただし、接触型が多く、カップリング剤が必要な場合があるほか、複雑な層構造では解析が難しくなることがあります。
物理式膜厚測定は、機械的な段差や重量変化を利用する方法です。
代表的な手法として、接触式段差計、重量法(塗布前後比較)などがあります。
接触式段差計は、膜を一部除去した段差を触針(スタイラス)でなぞることで膜厚を測定します。
高精度な測定が可能で、研究開発や校正用途に利用されます。
一方、重量法は塗布量管理に使われますが、平均膜厚評価に限定されます。
物理式は原理が明確で信頼性が高い反面、基本的にオフラインかつ破壊測定となるため、工程管理用途としては補助的な位置づけとなります。
光式膜厚測定は、膜表面と膜内部界面(膜/基材界面)で反射した光の干渉を利用して膜厚を算出する方式です。
特に薄膜では、反射光同士の位相差が膜厚に依存するため、干渉波形や分光特性から厚さを求めることができます。
透明膜・半透明膜に強く、非接触・高精度測定が可能です。
図1のように、反射光①と②の干渉を解析して、位相差から膜厚を算出します。
なお、光式膜厚測定は、ここで説明した、光干渉法以外にも、IR吸収法、光反射法、光分光法に分類でき、それぞれの原理や特徴比較に関しては、表2を参照してください。
図1 光式膜厚測定の原理(模式図)
熱式膜厚測定は、測定対象に熱を与え、その温度上昇・冷却挙動から膜厚を推定する方式です。
膜が厚いほど熱の伝達が遅くなり、温度応答に違いが生じます。
主に樹脂膜・塗工膜・有機材料に適しています。
図2のように、温度の立ち上がり・減衰時間を測定し、熱拡散特性から膜厚を算出します。
図2 熱式膜厚測定の原理(模式図)
電磁式膜厚測定は、金属基材上の膜によって変化する磁束密度や渦電流の強さを利用する方式です。
磁気誘導法と渦電流法があり、磁気誘導法は、磁性金属上の非磁性膜、渦電流法は、導電性金属上の非導電性膜を対象としています。
基材と膜の組み合わせが限定されますが、簡便で現場向きです。
図3のように、磁界もしくは渦電流を発生させて、その応答変化量(磁束密度もしくは渦電流の変化量)によって、膜厚を算出します。
図3 電磁式膜厚測定の原理(模式図)
放射線式膜厚測定は、放射線が物質を通過する際の吸収量や透過強度が膜厚に依存することを利用する方式です。
特に連続塗工ラインでの非接触・インライン測定に強みがあります。
図4のように、放射線を当てたときの透過強度の減衰量を測定し、相関する膜厚量を算出します。
図4 放射線式膜厚測定の原理(模式図)
音響式膜厚測定は、超音波が膜と基材の界面で反射する際の往復時間(TOF)を測定し、関係式 “厚み=音速×[TOF]/2” から膜厚を得る方式です。
厚膜や不透明膜にも対応可能です。
図5のように、超音波を膜に入射し、膜表面と基板表面での反射時間から膜厚量を算出します。
図5 音響式膜厚測定の原理(模式図)
物理式膜厚測定は、膜を一部除去して生じた段差、あるいは塗布前後の重量差を基に膜厚を算出する方式です。
校正・研究・基準測定として重要な方式です。
図6のように、接触式段差計では、段差を触針(スタイラス)でなぞることで膜厚(=段差量)を測定します。
図6 物理式膜厚測定の原理(模式図)
| 方式 | 具体的な方式 | 主な物理原理 | 主な測定対象 | 非接触 | 適用膜厚 |
|---|---|---|---|---|---|
| 光式 | 光干渉法、IR吸収法、光反射法、光分光法 | 光干渉・反射 | 半導体、光学薄膜、透明膜 | ◎ | nm~μm |
| 熱式 | 光熱放射法、赤外線吸収 | 熱伝導・熱拡散 | 塗装(ウェット/ドライ)、樹脂膜 | ○ | μm~sub-mm |
| 電磁式 | 電磁誘導、渦電流 | 磁気・渦電流 | 鋼板上の塗装、アルミ上の皮膜 | ◎ | μm~mm |
| 放射線式 | 蛍光X線、X線反射率、線散乱 | 放射線吸収 | メッキ、極薄ナノ膜 | ◎ | μm~mm |
| 音響式 | 超音波、テラヘルツ | 超音波反射 | 厚い塗膜、不透明な多層膜 | △ | 数十 μm~mm |
| 物理式 | 触針式段差計、水晶振動子 | 段差・重量 | プロセス管理、段差測定 | × | 全般 |
| 方式 | 測定原理 | 特徴 | 主な測定対象 | 限界 | 主な用途 |
|---|---|---|---|---|---|
| 光干渉法 | ・膜表面と界面の反射光の干渉パターンから膜厚を算出 | ・高精度(nmオーダ) ・非接触 ・透明膜に強い |
透明膜、半透明膜(SiO₂、レジストなど) | ・不透明膜は不可 ・多層膜は解析が複雑 |
半導体プロセス、光学薄膜、レジスト膜厚 |
| IR吸収法 | ・材料固有の赤外吸収ピークの強度から膜厚を算出 | ・材料識別が可能 ・厚膜にも対応 |
有機膜、ポリマー膜、樹脂膜 | ・吸収ピークがない材料は不可 ・薄膜(<100 nm)は精度低下 |
樹脂コーティング、接着剤膜、ポリマー膜 |
| 光反射法 (単波長) |
・単一波長の反射率変化から膜厚を推定 | ・装置が簡易 ・高速測定 |
単層膜、比較的薄い膜 | ・多層膜は困難 ・膜物性の影響を受けやすい |
生産ラインでの膜厚モニタ、簡易検査 |
| 光分光法 (分光反射法) |
・多波長の反射スペクトルをモデルフィッティングして膜厚を算出 | ・多層膜に強い ・材料物性も同時算出 ・高精度 |
透明膜、半透明膜、多層膜 | ・モデル構築が必要 ・計算負荷が大きい |
半導体多層膜、光学コーティング |
膜厚測定技術には、それぞれ異なる特長と制約があります。
「何を」「どの工程で」「どの精度で」「非破壊か破壊か」といった条件を整理した上で、最適な測定方式を選定することが重要です。
光学式膜厚測定技術は、非接触・高速・高精度という利点から、半導体、ディスプレイ、フィルム、光学部材など幅広い分野で利用されています。
一方で、方式ごとに適用条件や測定限界が異なるため、実際の製造ラインで安定した測定を行うには、原理理解に加えて運用上の注意が欠かせません。
まず、光学式測定は膜の光学特性(屈折率・吸収係数)に強く依存します。
材料の光学定数が不明確だったり、ロット間で変動したりすると、同じ膜厚でも反射スペクトルが変化し、誤差の原因になります。
特に分光法では、光学定数モデルの精度が測定精度を左右するため、事前のキャリブレーションや定期的な再測定が重要です。
また、表面粗さや散乱、汚れ、曇りなども反射光を乱し、干渉パターンを崩すため、光学窓の清掃や測定点の管理などが不可欠です。
フィルム製造ラインに適用する場合、測定器は高速搬送されるフィルムに対してリアルタイムで測定する必要があります。
ライン上では振動、温度変動、フィルムの揺れ、表面の微小なうねりなどが発生するため、光学ヘッドの固定剛性、測定スポットの安定化、温度補正が求められます。
さらに、フィルムは多層構造であることが多く、単純な干渉法では解析が困難な場合があります。
そのため、近年は分光反射法+多層モデル解析が主流となり、AIによるスペクトルフィッティングや、ライン上での自己学習型キャリブレーションも導入されつつあります。
①高速化・高S/N化によるリアルタイム制御への活用
②AI解析による多層膜の自動モデル化
③光学式と他方式(電磁式・熱式)のハイブリッド化による測定信頼性向上
④小型化・低コスト化によるラインセンサへの組み込み
などが挙げられます。
特にAI解析は、従来の物理モデルでは扱いにくかった複雑なスペクトルを高精度にフィッティングできる可能性があり、フィルム製造の高度な品質管理に大きく寄与すると期待されています。
執筆者:ホサナ技研 小川 正太郎
それぞれ、光の干渉・熱応答・磁気特性・放射線透過・超音波反射・機械的段差など、異なる物理原理を利用して膜の厚さを測定します。
・光式:非接触・高精度(透明膜に適する)
・熱式:材料特性を利用(樹脂膜に適する)
・電磁式:現場向き・低コスト
・放射線式:インライン・連続測定
・音響式:厚膜・不透明膜に対応
・物理式:高精度(研究・校正用途)
各方式の詳細な説明は[第1章 膜厚測定の各方式と説明]、
測定原理は[第2章 膜厚測定の各方式の原理]に記載しています。
・光分光法:多波長の反射スペクトルを解析し、多層構造を高精度に評価
・音響式:超音波の反射時間から層構造を解析
ただし、透明フィルムか不透明フィルムか、層構成や材料特性によって最適な測定方法は異なります。
測定方式の選定に不安がある場合は、用途・試料条件に応じて最適な装置をご提案可能ですので、お気軽にお問い合わせください。
・透明・半透明フィルム
→光学式(光干渉・分光法)が有効
・不透明フィルム
→光が透過しないため、音響式(超音波)、電磁式、物理式、熱式などを選定
そのため、フィルムの光学特性(透過性・屈折率)を考慮した方式選定が重要です。
三ツワフロンテックでは、用途に応じた複数方式の膜厚計を取り扱っております。
測定対象に合わせた最適な機器選定についてもご相談いただけますので、お気軽にお問い合わせください。
特に光学式では、表面の凹凸や散乱によって反射光が乱れ、干渉パターンや測定値に誤差が生じる可能性があります。
また、電磁式や接触式においても、表面粗さや基材の状態が測定ばらつきの原因となる場合があります。
そのため、
・測定面の清浄化
・表面状態の管理
・適切な校正
などを行うことで、測定精度を安定化させることが重要です。
こちらの記事では、表面粗さ測定を含む「膜面評価」の測定方式や原理について詳しく解説しています。
膜面評価とは|塗工ムラ・外観検査や評価方法、原理について解説
本稿では、膜厚測定技術を方式別に整理し、原理と使い分けの考え方を解説しました。
各方式の特長と制約を理解し、工程や材料に適した測定法を選定することで、安定した品質管理と生産性向上の一助となれば幸いです。
公開者情報
三ツワフロンテック 広報担当は、科学技術支援商社として最新の技術や市場動向をわかりやすく解説し、皆様に役立つ情報を提供します。