ロール to ロール(R2R)技術について|湿式塗工の種類や適応例も解説
ロール to ロール(R2R)技術について|湿式塗工の種類や適応例も解説
【目次】
この記事では、ロール to ロール技術と湿式塗工について解説します。ロール to ロールと湿式塗工は、生産の効率化やコスト削減のために用いられることが多い技術です。
湿式塗工には様々な方法があります。目的により、それぞれに特徴があります。本記事ではそれぞれの方法についての、大まかな仕様、特徴についてもまとめました。
ロール to ロール技術は、連続的なウェブ(薄いシート状の材料)をロール(巻き取り)しながら加工する製造技術です。シートまたはフィルム、金属箔、紙、プラスチックなどの柔軟な基材を使用し、高速で大量生産が可能な点が特徴です。シートまたはフィルム状の材料をロールで供給しながら加工し、別のロールに巻き取るため、連続した生産が可能となるのです。
また、ロール to ロール技術の導入は、コスト削減にも有効です。連続処理によってバッチ処理に比べて生産効率が向上し、材料ロスの削減や歩留まりの改善にもつながります。
湿式塗工とは、液体やペースト状の材料を基材に塗布し、その後に乾燥・硬化させることで機能性を持たせる技術です。これらの材料には、塗料、接着剤、インク、スラリー(懸濁液)などが用いられ(以下、「塗工液」と呼ぶ)、均一な膜厚で塗布されることが求められます。主な塗工方式には、スリットダイ塗工、スプレー塗工、グラビア塗工などがあり、用途や必要とされる精度に応じて適切な方法が選定されます。
この技術は、リチウムイオン電池の電極塗工や光学フィルムの製造、印刷・パッケージ、建材・自動車の防錆・塗装など幅広い分野で活用されています。特に、電池やディスプレイ分野では、高い精度で均一な塗膜を形成することが重要です。
ロールtoロール技術と湿式塗工を組み合わせることで、生産性向上とコスト削減が実現できます。
理由は、連続生産による効率化と材料の無駄削減にあります。前述の通り、ロールtoロール方式では、材料をロール状に供給しながら連続的に処理するため、バッチ処理に比べて生産の中断がなく、大量生産に適しています。湿式塗工をインラインで適用することで、必要最小限の塗料を均一に塗布でき、材料ロスを抑えることができるのです。
また、ロール to ロール技術で乾燥工程を一括管理して最適化することでエネルギー消費を削減できるため、運用コストの低減にもつながります。さらに、均一な膜厚の実現により品質管理が容易になり、不良品の発生を抑えることができます。これにより、省スペースでの生産が可能となり、多様な材料や用途にも対応しやすくなるため、総合的に見て生産性の向上とコスト削減が実現できます。
この章では、ロール to ロール技術と関係する湿式塗工の種類について、ご紹介します。
湿式塗工について詳細な解説のある「〈電子版〉Roll To Roll塗工技術とスケールアップ~開発から製造までのグラビア、バー、ブレード、ディップ、スピン、スロットダイ~」(監修 AndanTEC 浜本伸夫)より引用・抜粋を用い、紹介していきます。
ダイ塗工は、ロール to ロール工程において最も精密な塗工が可能な手法の一つです。スリット状の開口部から塗工液を押し出し、基材上に均一な薄膜を形成します。
成膜可能な膜厚は10ナノメートルから数百マイクロメートルまでと広範囲に対応しており、電子部品の製造工程などで重宝されています。
スロットダイ(Slot Die)は、湿式塗工の代表的な方式の一つとして知られているため、本記事では書籍よりスロットダイについて引用抜粋します。
ブレード塗工(ナイフ塗工)は、鋭利なブレード(ナイフ)の下を基材が通過する際に、塗料やコーティング材を均一な厚さで塗布する方法です。高精度な塗工が可能で、特に紙やフィルムのコーティングに適しています。
ブレード塗工について、書籍から抜粋して紹介します。
*コンマコーターはヒラノテクシードの商標
図2-1 コンマコーター
名前は形状が「,(英記号のコンマ)」に似ている事に由来する。ヒラノテクシード社以外も類似のブレード塗工ヘッドを取り扱っているが、「ナイフ」とか「ブレード」等と称している。
ブレード塗工は「ナイフ(含コンマコーター)」、「スティッフ(またはベベル、チップ)」、「ベント」に大別される(図2-2)。「ナイフ方式」ではブレード~基材を百ミクロン単位の狭いギャップに規定、「スティッフ方式」では硬いブレードを基材に押し当て、狭い間隙を液が通過、「ベント」は撓みやすいプラスチックや薄い金属性の可撓性ブレードを強く押し当て、間隙を液が通過する。スティッフやベントは量産の均一塗工には不向きで、むしろグラビアロール上の余剰液を掻き落とすドクターブレードとして広く活用される。ここでは量産に利用されるナイフ(コンマコーター)としてのブレード塗工を説明する。
グラビア塗工は、グラビアロールと呼ばれる凹版のローラーを使用して、塗料やインクを基材に転写する塗工方法です。塗布量の制御がしやすく、高速で均一な塗工が可能なため、包装材やフィルムのコーティングに広く使用されます。
以下、グラビア塗工の歴史、三大要素、ドクターブレードについて、グラビア塗工方式の分類を書籍より引用抜粋します。
バー塗工は、ワイヤーを巻いたロッド(バー)を用いて、基材上の塗料を均一な厚さに広げる塗工方法です。シンプルな構造で微細な厚み調整が可能なため、紙やフィルムのコーティングに適しています。 以下、バー塗工の特徴と、バー塗工に使用される溝付きバー・ワイヤーバーについて、書籍から抜粋して紹介します。
ワイヤーバー塗工にはΦ10mm前後の芯金に数十μm~1mm程度のワイヤーが密に巻かれている※1。量産用のバー塗工ではフィルム搬送とバーを同期回転させ、ワイヤー間の隙間を通過した塗工液をフィルムに転写させる(図4-2)。
バーにはフィルムが僅かな角度でラップされるがフィルムに押されて芯金が撓まないよう、受座が配置される。バーは上部でフィルムと同期回転し、下部で受け座に擦れるので、部分軸受の状態になっている。なお、バーとフィルムの回転速度をずらす異周速や反転させる方法もあるが、フィルムを傷つける懸念あり、光学フィルムなどの高品質を求められる分野では避けられるので、ここでフィルムとバーが同速の事例で解説する。 ワイヤーはダイスで引き延ばして精線されるので、ダイス次第で真円からズレていれる事があり(図4-3)、ねじれて巻かれると均一な塗工量が得られない※2。最近は溝付きバー※3,4(転造バー)を採用される場合が多い(図4-4)。
溝付きバーは芯金に、多様な形状パターンの溝を転造したものである。ワイヤーバーはワイヤー間に汚れが堆積しやすいが、溝付きバーでは堆積しにくく(図4-5)、洗浄性に優れる。更に表面をハードクロムメッキやDLC処理して、所望の光度や濡れ性に調整する事もできる※4(図4-6)。
ディップ塗工は、基材を液体の塗料槽に浸し、引き上げることで均一な塗膜を形成する塗工方法です。形状が複雑な対象物にも全面的にコーティングできるのが特徴で、光学製品や医療機器のコーティングに活用されます。
ディップ塗工の歴史、塗りの厚さのコントロールの仕方について、書籍から抜粋して紹介します。
RTRとしても100年以上前の工業塗工の黎明期に、当時の高精度塗工の最先端であった感光写真の製造工程として、図5-3の方式が発明されている※4,5。図5-3のようなRTRのディップ塗工は既報の概説に譲り※6、本報では主に実験室で活用されるバッチのディップ塗工に焦点を当てる。
スピン塗工は、基材を高速回転させながら塗料を滴下し、遠心力によって均一な薄膜を形成する塗工方法です。半導体や光学薄膜の製造で用いられ、特に均一で精密な膜厚制御が求められる用途に適しています。 スピン塗工について、書籍から抜粋して紹介します。
インクジェット塗工は、ロール to ロール技術と組み合わせることが可能なデジタル塗工方式です。微細なノズルから塗工液を基材に直接噴射し、ドットパターンを形成することで、精密な塗工を実現します。非接触で微量の液滴を高精度に吐出できるため、高精細なパターン形成や材料の無駄を削減できるのが特長です。
この技術では、液滴を基材上に正確に配置するため、主にピエゾ素子(圧電素子)を用いた吐出方式が採用されます。ピエゾ素子が電圧変化に応じて変形し、液体を押し出すことで微小な液滴を形成します。これにより、均一な薄膜や複雑なパターンを非接触で作製可能です。
ロール to ロール秘術と組み合わせることで、高速かつ省資源での精密塗布が可能になります。例えば、有機太陽電池やフレキシブルディスプレイの製造において、広範囲にわたる微細なパターン形成が求められる場合、ロール to ロール方式の導入により生産効率が向上し、大量生産に適したプロセスが実現できます。
スプレー塗工は、液体材料を微細なミスト状にして基材に吹き付ける塗布方法です。ノズルを用いて均一に材料を分散させることができるため、凹凸のある表面や複雑な形状の基材にも適用しやすい特徴があります。一般的に、塗料や接着剤、機能性コーティング(撥水・導電性・光学特性向上など)を形成する目的で利用されます。
ロール to ロール技術と組み合わせることで、大面積に均一な薄膜を効率よく形成できるため、フレキシブルエレクトロニクスや高機能フィルムの製造プロセスにおいて重要な役割を果たします。また、スプレー塗工はインクジェット塗工と異なり、比較的ノズルの詰まりが少なく、粘度の高い液体やナノ粒子を含む材料にも対応できるため、特定の機能性コーティングを施す際に有利です。
メニスカス塗布(キャピラリーコート法)とは、基板をノズルと接触させ、液体を毛細管現象によって供給しながら均一な薄膜を形成するコーティング技術です。基材や液体特性に依存しますが精密な膜厚制御が可能となる場合も多く、半導体やディスプレイ製造などの分野で利用されています。 メニスカス塗布(キャピラリーコート法)ついて、書籍から抜粋します。
上記で紹介してきた湿式塗工は、以下のような事例で用いられます。
リチウムイオン電池の電極を作成するために、スラリー状の正極・負極材料をアルミニウムや銅の集電体に均一に塗布する技術が用いられます。塗膜厚さのばらつきが充放電特性に影響を与え、高速塗工時にはピンホールや剥離といった欠陥が発生することが課題となります。そこで、スロットダイ塗工が活用され、リアルタイム厚み制御(例: 光学測定)の導入により品質向上が期待されます。
関連製品|FOM Technologies製 小型卓上ダイコーター
ディスプレイ向けの偏光フィルムや反射防止(AR)フィルムの製造では、PETフィルム上にナノ粒子分散液や高分子材料を均一に塗布し、光学特性を向上させます。透明性と均一性の確保が求められますが、膜厚のムラや異物混入が製品品質を大きく低下させるため、それらを防ぐことが課題です。クリーン環境でスロットダイ塗工を実施し、プラズマ処理を活用して密着性を向上させることで、高品質な光学フィルムの生産を可能にします。
有機ELディスプレイの長寿命化を実現するために、PETやPENフィルム上に酸素・水分バリア層を形成する塗工が行われます。バリア性能を高めるためには水分透過率を極限まで低減する必要があり、ナノメートルレベルでの膜厚均一性が求められることが大きな課題となります。ゾルゲル法を用いたナノスケールの塗工技術を採用し、スロットダイ塗工とUV硬化技術を組み合わせることで、多層構造の高性能バリアフィルムを実現します。
上述してきたように、ロール to ロール技術と湿式塗工は、高速・高精度な生産を可能にし、コスト削減や品質向上に貢献する重要な技術です。 最適な塗工方式を選択することが、製造現場や研究現場で不可欠となります。本記事が、技術理解の一助となれば幸いです。 技術や機材についてご不明点ありましたらお気軽にお問い合わせください。
公開者情報
三ツワフロンテック 広報担当は、科学技術支援商社として最新の技術や市場動向をわかりやすく解説し、皆様に役立つ情報を提供します。
浜本 伸夫氏の著書 『 Roll塗工技術とスケールアップ~開発から製造までのグラビア、バー、ブレード、ディップ、スピン、スロットダイ~ 』(株式会社AndTech出版、2024年)の内容をもとに、本稿の内容を構成いたしました。 記して御礼申し上げます。